今週から3週にわたり、美術家で成安造形大学芸術学部助教、附属近江学研究所研究員の石川亮さんをゲストにお招きします。石川さんはこれまで、国内の神仏にゆかりのある地域に出向き、その場所の持つ性質やルーツを探ることで作品制作をされてきました。とりわけ滋賀県での制作に力を入れており、また成安造形大学の附属機関である近江学研究所においても、滋賀県ならではの暮らしの美とアートをつなぐ研究をされています。そんな石川さんに「滋賀ならではの“美”ってなに?」というテーマを、石川さんのこれまでの活動と絡めながらお話しいただきます。
1週目の今回は、石川さんの制作についてお話をいただきました。
近江という土地、そのルーツをテーマとした作品を制作されてきた石川さんですが、最初は社会構造(システム)と自分自身の距離、自分の立ち位置を考えていくところから始まったとのこと。
最初の作品である「全体駅」。作品そのものは「全体駅」と書かれた旧国鉄時代のデザインの駅名標。これを実際の駅看板に貼り、その写真を撮るところまでが作品です。
90年代からグローバル化されていき、すべてがシステム化されていくその中の一個人はどうあるべきかという問いに向かい合った作品です。色々なもの(駅も同様)が均質化されていくなかで、すべての駅が「全体駅」という駅になれば、その町の個性は消えるようでいて、かえってその町のそこにしかない場所に目がいくということがあるのでは?グローバルからローカルを見れるようになるのではということを示唆します。
別の作品「全体-水」も、最初はスイスのレマン湖と滋賀の琵琶湖、二つの固有の湖の水を混ぜて一つのどちらのものでもなくなるということを表しました。凍らせて、溶けていき混じった瞬間、「全体水」となります。
この「全体水」を滋賀でやったらと言われ、滋賀の湧き水でも制作されました。石川さんが当初調べたところ40箇所であり、この箇所数でも全部取りに行くのか?ということが一瞬をよぎりながらも「面白いかも」と始めます。水採りをしマッピングしていくのですが、行けば行くほど地元の方から次の情報が出て来たそうで、2010年時点で80箇所、そして2012年の展覧会「 自然学|SHIZENGAKU−来(く)るべき美学のために−」(滋賀県立近代美術館)では120箇所の水で「全体-水」を制作したそうです。
グローバルと個人の距離間からスタートし、今はグローバルとローカルの両方を見据えながら作品制作をされていますが、一貫してコンセプトは変わりません。これらのことを「見える化、物質化」していくのが美術家としての自分の仕事と石川さんは言います。
深く考えられたコンセプト、観る側も考えさせられるものですが、作品そのものや制作過程はくすっと笑える部分があり、親しみすら感じます。
次週は、石川さんが関わっておられる「近江学研究所」の活動や、石川さんが捉えるアール・ブリュットについてお話をお聞きしていきます。
放送をお聴き逃しの方、カバーされていないエリアにお住いの方も是非Podcastからお聴きください。(音声は、放送後の翌週月曜日に更新されます。※祝日の場合は火曜日)
次週も、石川亮さんにお話を伺います。5月6日(金)21:30~21:55 KBS京都ラジオです。