今週も滋賀県立大学人間文化学部教授の細馬宏通さんをゲストにお招きし、お話しをうかがいました。
細馬さんの著書『介護するからだ』(医学書院)を読んでいると、介護現場やアール・ブリュット、音楽が生まれる場が地続きのように並列で書かれていることに気づきます。細馬さんの中では芸術作品をみることと、介護現場でみることがどうつながっていったのでしょうか。細馬さんの見方や興味の向き方は次のようなものだそうです。
「アール・ブリュットを語る時に、今までみんな作品で語ってきた。出来上がったものが素晴らしいと。しかし、そこだけ見ているといつまで経ってもすごい才能を持った人が、孤独に耐えながら閉じこもって、ある日素晴らしいものを創ったということにしかならない。実際にアール・ブリュットの作者はもっと人懐っこかったり、家族や周りとの関わりが多かったり、一人での制作でなく家庭や作業所での、毎日ある程度時間をかけてやる作業だったりもする。何かに向かった時にやってしまう何かというのは、介護現場のレクでついやっちゃう手の動作だったり、レジ袋をピシッと折りたたむということだったり、そういうものにちょっと似ていると思う。絵や彫刻という空間的なものでなく、それを作っている時間に興味がある。さらに、この時間には色々な人が関わっているということに興味がある」
さらにこれらの場に通底していることを細馬さん流に言うと、「一からではないやり直し」ということになるそうです。介護の現場でケアがうまく行っている時は、何もかもがうまくいっているのではなく、ほんのちょっとのやり直しはたくさん起きているということが現場を観察したり、ビデオを繰り返し見てわかったそうです。しかし一からのやり直しではなく、流れの中でパッと変更する機敏さは、美術モデルよりは音楽モデルだと言います。作品を作っている最中でも「違うカーブになっちゃった、しかしそれを生かしていこう」とか、「プッと音を吹いてみたけど無視された。でも終わりではなく、無視されたことも使えないか」というような感じだそうです。
ちょっとしたやり直しが今やっていることの一部になっていくということが、介護の現場でも音楽の現場でも起きているのではないか、通底しているのではないかと感じているのだそうです。
この番組に何度目かの登場の細馬さん。今回もユニークな視点をもたらしてくださいました。一見、別の種類の現場と捉えられることでも、細馬さんのいうように人と人の相互行為という風に見ていくと、どんな場面も通底したものが見えてきそうです。『介護するからだ』にはこういった視点をもたらしてくれるたくさんのヒントがあります。
放送をお聴き逃しの方、カバーされていないエリアにお住いの方も是非Podcastからお聴きください。(音声は、放送後の翌週火曜日に更新されます)
次週は、社会福祉法人グロー法人本部企画事業部 齋藤誠一次長がゲストです。過日、10日間にわたり、イギリス、フランス、スイス、オーストリアの様々なアール・ブリュットにまつわる美術館やアトリエを訪ねたレポートをお届けします。8月12日(金)21:30~21:55 KBS京都ラジオです。