今回は、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAを運営する社会福祉法人グロー法人本部企画事業部の安藤恵多主任(以下、「安藤さん」)と山田創自立生活支援員(以下、「山田さん」)がゲストです。NO-MAは、これまで日本全国の福祉施設や精神科病院、個人宅やアトリエなど回りながら、アール・ブリュット作品とその作り手の全国調査を手掛けてきました。現在、各地でアール・ブリュットにまつわる展覧会が数多く開催されていますが、やはり作り手や作品の存在があっての展覧会。それには、常に新たなアール・ブリュットとの出会いの機会づくりが欠かせません。その調査の動きは、現在アジアにまで渡り、韓国や台湾、マレーシアやタイにも及んでいます。今回は、NO-MAの作品調査の概要、そして次回は最近二人が調査を行っているタイの話をレポートしてもらいます。
安藤さんは滋賀県職員です。もともとアール・ブリュットが好きで、入職して初めての異動の時期に、県庁でアール・ブリュットを取り組むということを聞いて、異動希望を出したところ障害福祉課に配属されました。そこで初めてアール・ブリュットが障害にも関わることなのだということを知ります。アール・ブリュットを初めに見たのは「アール・ブリュット・ジャポネ」展ニューズレターとのことで、澤田さんの作品写真が前面に出ていて「なんだこれは!」と感激したそうです。アール・ブリュットのような個別の事案を役所が扱うということは今まで聞いたことがなかったので、やってみたいと思ったのが始まりで、その後安藤さんは、アール・ブリュットの事業を県の施策を現場で推進する立場としてグローに出向を命じられ現在に至ります。
山田さんは大学での専攻は美学でした。美学は作品そのものより「美ってなんだろう」というもっと抽象的なことを考えていく領域ですが、作品を見ていくということと繋がっていない訳ではなく、美と芸術は密接なので、そういうことでアートにはずっと興味があったそうです。
NO-MAの作品調査は、NO-MAとして活動が始まった当初から行われています。作品を見せていくとなったときに、作品そのものがないと展覧会は成立しないので、作者情報をアーカイブしていくことが必要になります。もう一つの目的は支援者のネットワークづくりです。今はいろいろなところで、障害のある人の造形活動等がたくさん取り上げられているが、当初は施設現場でもそういうことに取り組んでいる人は少数派でした。大きな施設でも造形担当1人とか、病院でも担当の看護師さんが一人関心を持ってやっていると点在している状況でした。そういう人たちをつないでいくということも目的としてあり、今でもそれは続いています。
全国を調査していて、地域特性や施設環境などで作品の系統のようなものはあるかとの問いにそれぞれの所感が話されました。基本的には個別とは思うが、施設にある画材、素材が限られていたりとか、似ているために近しいものになっていくということはあるというのは山田さん。安藤さんからは、作業スペースや保管できるスペースによって作品の大きさが決まってくるということを施設のスタッフからよく聞くことがあるというエピソードが紹介されました。
作者や作品の情報だけでなく、取り巻く人や環境など様々なことが見えてくる作品調査ですが、活動を続ける中で国内のみならずアジアにも調査が広がっています。次週は、2人が手掛けているタイでの調査についてお話しします。
放送をお聴き逃しの方、カバーされていないエリアにお住いの方も是非Podcastからお聴きください。(音声は、放送後の翌週火曜日に更新されます)
来週も、引き続きタイでの作品調査について報告します。9月9日(金)21:30~21:55 KBS京都ラジオです。