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【見えたものは】 |
見えたものは
藤田マサヒロ×seo《Green Chan Project》2019.11.06 Wed 展望館
幸いにも雲一つ見当たらないほどの秋晴れだった。ロープウェーに乗って山を登り、山上の展望館の中に入ると、奇妙なコンビに迎えられる。髪の毛以外が真っ白の女の子「グリーンちゃん」と、全身緑色のクマ「ミドリグマ」である。アーティストseo氏により描かれたキャラクターを、藤田マサヒロ氏が立体化したものだ。展望館の一階二階どちらにも、この二人(一人と一匹?)が様々な場所に置かれている。
グリーンちゃんは写真の通り、髪の毛の色以外は真っ白だ。顔も、目や鼻、口は形作られているが、瞳を描き入れたりはされていない。服装も白のワンピースという、ある種「特徴がない」ともとれるものにされている。二階に展示されているseo氏のイラストでは瞳が描かれ、様々な服装をしているから、より特徴がない造形になっているのは「人体の表層を剥ぐような表現をしていた」藤田氏によるアレンジだろう。京都から来られたハオハオさんはこれを見て、「姪に似ている!」と驚かれていた。一階の受付にいらっしゃった、サポートスタッフの石居さんも、「誰かに似ている、とおっしゃる人がたまにいます」と話されていた。なるほど、特徴が極端になくなったグリーンちゃんの顔は、特徴がないがゆえに誰かの特徴を連想しやすいのかもしれない。ハオハオさんは面白そうに笑いながらも少々不気味そうに見ていた。知り合いに見えるという親近感と不気味さ、どちらにせよ、グリーンちゃんは見る者にとってただの人形ではなくなるだろう。
そこへいくと、グリーンちゃんと時に並んで、時に離れて存在しているミドリグマも、ただの人形には見えなくなってくる。このミドリグマは、展望台の中だけでなく、周囲にも配置されている。二階の案内をされていた吉田さん曰く、「あそこにいるよ」と窓の外を指さすと、子どもたちが喜ぶそうだ。私も、ひととき夢中になって探してしまった。そしてパッと展望台の外に目をやると、ふもとの近江八幡の町並みから、琵琶湖の埋め立て地、そして遠くの鈴鹿山脈まで、広い広い土地がいっぺんに目に映った。
あの緑の屋根にも、山並みにも、ミドリグマやグリーンちゃんがいるかもしれない……そんな風に想像してみると、この展望館の展示テーマのように、この景色そのものが「とある国」―どこか別の世界に見えてきた。(記者:児玉泰地)