ボーダレス・アートミュージアム NO-MA(ノマ)

【お知らせ】

2023年05月03日

企画展「林田嶺一のポップ・ワールド」関連レポート
事前作品調査【後編】

開催中の企画展「林田嶺一のポップ・ワールド」の関連レポートをお届けします。展覧会開催前、作品集荷のための事前調査で北海道を訪れたときのレポートです。今回の展覧会では、林田さんのご友人である原田ミドーさんのアトリエに展示されていたほぼすべての作品をご覧いただくことができます。どんなところから作品がやってきたのか、ぜひご一読ください。

 


大雪原に現れた、色鮮やかな「林田ワールド」

赤澤誉四郎 (社会福祉法人グロー職員)

後編

「目をつむったら扉を開けるから、ゆっくり目を開けてごらん」と原田さんが耳元でささやいた。薄暗い部屋に少しずつ目が慣れてくると、ごちゃごちゃといろいろなものが置かれている様子が見えてきた。まず目に入ったのが、黄色いオープンカー。その奥にバイクが何台も並べられている。壁一面に林田さんの作品が飾られていた。

薄暗い空間に差し込むかすかな光に照らされるように、不思議な生き物や顔、工場のような建物が浮かび上がってきた。林田さんの初期の作品となる「人間製造工場」シリーズや「顔のある風景」シリーズだった。

 

 戦争体験が描かれた「満州ポップアート」シリーズは、2階に飾ってあるという。不安定なはしごにしがみつきながら、ゆっくりと2階へ上がると、カラフルな色彩が一面に広がった。原田さんが「ボックスアートと呼んでいる」という作品は、絵画のようであり、木で作った箱のようでもあった。赤、青、黄、緑と多くの色が使われていて、家の形をしていたり、船の窓の形だったり、すべてがおもちゃのようだった。

少し後の話になるが、展覧会の会期中に行った対談のなかで、原田さんは「最初に林田さんの作品を見たとき、なんでこんなことするんだろう。意味がないと思って拒絶してしまったんだよね」と打ち明けた。「でも、時間をかけて見ると林田さんの作品がどんどん好きになってくる。初めて見る人は作品が見えてくるまでに時間がかかるかもしれないけど、時間をかけてゆっくり見てほしいな」と話していた。アトリエに入る前に「目を閉じて」と言ったのは、「ゆっくりなじんで」という意味だったのかもしれない。

対談する原田さんと横井学芸員

 

 

 

 

対談の様子。横井学芸員(左)原田ミドーさん(右)。林田さんの制作を語った動画は以下よりご覧いただけます。
https://youtu.be/c8in1MVcfLM

「満州ポップアート」シリーズは、明るい色彩にあふれていて、戦争の悲惨さや暗さはほとんど感じられない。爆撃する飛行機には足が生えているし、焼け野原には土偶がいたり、おもちゃそのものが貼り付けられていたりもする。木の枠でレストランの窓を作っていたり、船の窓から人が海を見ていたりする。窓の向こうには焼け野原が広がっている。港に船が沈んでいく。窓を通して林田さんが戦争を見つめていたことがわかる。そして、作品の窓を通すことで、僕たちも林田さんと同じ視点で戦争を見ることができる。

 林田さんが人生をかけて表現したかったことがなんだったのか、ちょっと作品を見ただけではわからない。長い時間をかけても、本当のところはわからないのかもしれない。原田さんと横井学芸員は友人として、林田さんの心の内をのぞき込み、林田さんの伝えたかったことを推察しながら、多くの人に伝えようとしている。

 ホワイトアウトのなかを突っ走って、少しだけ命の危険を感じた後だったからかもしれないけど、林田さんのカラフルな作品に囲まれたとき、生きることの喜び、人生の豊かさが伝わってきた。雪に埋もれた小さな小屋のなかには、人間の表現の可能性が色鮮やかに息づいていた。

【後編おわり】

企画展「林田嶺一のポップ・ワールド」の情報はこちらをご覧ください。

https://no-ma.jp/exhibition/hayashidareiichi2023/

同時開催「盲ろう者との美術鑑賞成果展示『静かな夜にことばを浮かべる』」

https://no-ma.jp/exhibition/2023mourou/

ゴールデンウィークの開館情報
 https://no-ma.jp/2023/04/27/01-2/

アトリエ内の黄色いオープンカー
アトリエ1階のようす
1階のようす
壁一面に飾られている林田さんの作品
アトリエ2階のようす
アトリエ2階は色彩に包まれた空間だった
色彩ゆたかな作品が並ぶ
額もすべて林田さんの制作
林田さんの作品
差し込む夕日に照らされる作品