【お知らせ】
2023年08月18日
関連イベント「上土橋勇樹の公開制作&ギャラリートーク」レポート
8月5日(土)、開催中の企画展「並行世界の歩き方 上土橋勇樹と戸谷誠」の関連イベントとして、「上土橋勇樹の公開制作&ギャラリートーク」を開催しました。勇樹さんの制作をご覧いただいた後、勇樹さんのお母様である真由美さん、勇樹さんが所属するやまなみ工房の棡葉昌大さん、学芸員の横井悠によるギャラリートークをお楽しみいただきました。当日、同行されていた支援員の比留川さんもトークに参加されました。勇樹さんがフォントに興味を持った幼少期の話など貴重なお話がたくさん聞けたので、その一部をお届けします。
横井:
今回の展覧会の感想を聞かせていただけますか?
真由美さん:
この展覧会の展示方法は、勇樹にとって、ものすごくうれしい展示になっていると思います。プロジェクターで文字が映し出されていく様子とか、キラキラしているところとか、本人の一番うれしい感じを展示していただいていると思います。今までに見たことがない空間で、すてきです。
棡葉さん:
勇樹さんがパソコンを使って制作した作品を、このように展示していただいたことに、「すごい」と思いました。勇樹さんはリハーサルで一度NO-MAに来たのですが、すごく喜ばれている様子でした。勇樹さんは、気に入った場所、落ち着ける場所ではフィギュアスケートの選手のようにくるくる回ったりするのですが、ここに来た時、何度も回っていた姿が印象的でした。
横井:
NO-MAとしても、2004年の開館以来、ここまで映像をふんだんに用いた展覧会は初めてになります。勇樹さんが制作しているやまなみ工房に5回ほど行って打ち合わせをしたのですが、勇樹さんが喜んでくれるかはわからなかったので、今、喜んでくれていると聞いて、学芸員冥利に尽きるなと。やまなみ工房に勇樹さんが来たのが2,3年ほど前ということですが、勇樹さんの制作を初めて見たときどのように感じましたか?
比留川さん:
勇樹さんの作品を紹介すると、みなさん「これ手描きなんですか!」と驚かれるのですが、僕たちも最初は顔を近づけて見て、「本当に手描きなんだ」と驚きがありました。
棡葉さん:
文字に対する熱にびっくりでした。本当に文字が好きなんだって。
横井:
彼の文字に対する情熱はとどまるところを知らないですよね。いつごろから文字に関心を持ち始めたのですか?
真由美さん:
1歳のころからですね。缶コーヒーとかたばこの箱とか、洗剤とか、たくさんの文字が描かれているものにはまっていました。自動販売機を見ると帰れなくなってしまうんです。保育園のころには、漢字にはまっていて、文字が描かれた「〇〇室」といったプレートを持って帰りたいと先生を困らせたりしました。勇樹が初めて描いたのは、実は文字ではなくて、うずまきだったんです。
横井:
それは意外ですね。幼稚園の空き地に石を並べていたのを見てみたら「SONY」という文字になっていたというエピソードが僕は大好きです。勇樹さんが初めてパソコンに出会ったのはいつですか?
真由美さん:
小学校1年生のときに、担任の先生が勧めてくれました。壊さないか心配だったけど、そこからどっぷりはまりましたね。先生が使い方を教えてくれたわけではなくて、自分で全部やり方を覚えて文字を入力していきました。
棡葉さん:
やまなみ工房でも、一切、教えたりしてないです。ショートカットとかを駆使して作品を作っているのですが、どうやってるんだろうって思います。
横井:
これからも勇樹さんは様々なデザイン、メディアを横断するような制作を続けていかれると思います。
真由美さん:
私は勇樹の作るものの芸術性とかはわからなくて、(作品の描かれた)Tシャツを誰かが着てくれただけでうれしいし、ミーハーなんです。本人がやりたいようにやってくれたらいいと思っています。私は勇樹の生活が、なるべくストレスないように整えるだけです。芸術のことやプロデュースのことは、安心してやまなみ工房さんにお任せしています。
棡葉さん:
元々好きだったものを、引き続き好きにやれる環境を作っていきたいですね。さらに、好きなパソコンをするだけでなく、そこから広げていけるような、何かにつなげていけたらと思います。それには、勇樹さんのことを知ることが大切です。
比留川さん:
今日、勇樹さんはNO-MAに来ることをとても楽しみにしていて、駐車場からNO-MAまで全速力で走っていきました。この場所で自分の作品に囲まれながら、いつものパソコンで作品を作っている勇樹さんは、何度もにこやかな表情を見せています。僕はケア的な視点から、勇樹さんが喜びや楽しさ、うれしさを表現できるように見守っていきたいと思います。今日は、勇樹さんのそんな姿を見ることができて、よかったと思います。
横井:
今日は、非常にいろいろな角度から勇樹さんのことを知る機会になりました。皆様、貴重なお話をありがとうございました。