

アヴァンギャルドですが、なにか
2025年10月18日(土)- 2026年1月12日(月・祝)
「アヴァンギャルド」は元来軍事用語で「先駆者」を意味し、サン=シモンらによって芸術的革新を担う者として再定義されました。本展『アヴァ
ンギャルドですが、なにか』では、日常や個人的な経験を出発点に、既成概念を問い直す作品を紹介しました。アートは固定されたものでは
なく、個々の解釈によって再定義される創造的な営みであり、作家の真摯な姿勢や情熱は、鑑賞者の心に強く響きます。さらに、障害も制約で
はなく、独自の視点として創造性や社会的包摂を促す力と捉え直します。本展覧会は、情熱と違いへの開かれた姿勢こそが「前衛」の精神を生
み出すことを伝えてくれるはずです。 黒澤浩美(株式会社ヘラルボニーCAO)
展覧会情報
会場:ボーダレス・アートミュージアムNO- MA 滋賀県近江八幡市永原町上16(旧野間邸)
開館時間:11:00~17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始 12月29日(月)~1月5日(月)
観覧料:一般700円(650円)、高大生650円(600円)
※中学生以下無料、障害のある方と付添者1名無料
※( )内は20名以上の団体料金
主催:ボーダレス・アートミュージアムNO-MA、社会福祉法人グロー(GLOW)~生きることが光になる~
連携団体:一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会
後援:滋賀県、滋賀県教育委員会、近江八幡市、近江八幡市教育委員会
協力:近江八幡観光物産協会、しみんふくし滋賀、マエダクリーニング仲屋店
本展は、「2025大阪・関西万博文化芸術ユニバーサル・ツーリズムプロジェクト」と連携して実施するものです。
出展者
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井口 直人Iguchi Naoto
1971- 愛知県在住
コピー機のガラス面に自分の顔を押し付けて印刷したこれらの作品は、彼が通う施設にコピー機が導入されてから、職員との遊びの中で生まれたという。この行為は彼の日課であり、時には缶コーヒーやビールの応募シール、好きな広告など、自分のお気に入りのもの、あるいはその場で居合わせた誰かと一緒に顔のコピーをすることもある。歪みのある作品は、顔をコピー機に押し付ける際に、身体やものを動かすことで生まれている。井口直人≪無題≫2003-2006 -
石野 敬祐Ishino Keisuke
1987- 鹿児島県在住
コピー用紙、マジック、セロハンテープ。シンプルな材料で存在感のある紙の立体を作り出す。高校生の頃から少女型の人形の制作をはじめ、季節のイベントに合わせてハロウィンやサンタの格好に替わる。のりしろのない紙の面と面を、セロハンテープでのみ接着し、みるみるうちに紙の立体が生まれる。数年前から文字をかたどった作品が増え、最近では身近な人の名前も制作している。石野敬祐≪制服の女の子≫制昨年不詳 -
伊藤 裕Ito Yutaka
1975- 埼玉県在住
ステンドグラスの技法を使っているが、既成の概念にとらわれず、ガラスを選んで削り、組み合わせを決め、ひとつひとつのパーツをはんだ付けして完成させる。立体作品を作る時は施設の職員が助手となり、伊藤の指示した位置にガラスのピースを置き、ガラスがずれないように押さえ続ける。それを伊藤がガラスをはんだで接着する。当初は既定のデザインの製品を作っていたが、途中からは自分が作りたいものを作るようになり、この形が生まれたという。伊藤裕≪ジェットコースター≫2011 -
犬塚 弘Inuzuka Hiroshi
1968- 長崎県在住
中央に酒瓶が描かれ、商標や銘柄を示す挿絵、意匠が細かく描きこまれ、色彩や割付も実物のまま描かれている。瓶の周りには、製造元の社名や住所、価格、製造方法、素材の穀類の種類や度数まで詳細に記されている。犬塚が幼いころに描いた絵には必ずどこかに酒瓶や酒屋が登場していたという。そのうちに酒瓶の色や形に魅了され、酒瓶だけを描くようになった。彼が描く絵はすべて記憶を元に描かれているという。犬塚弘≪清泉≫制昨年不詳 -
岩瀬 俊一Iwase Shunichi
1973- 滋賀県在住
人物や動物などがペンを使って紙面いっぱいに描きこまれている。モチーフが決まると、紙面すべてに余白を余すことなく、ゆっくりとペンで描きこむ。動物図鑑などを見て自由に描いていると、このような個性的な絵が生まれてくるのだという。線のひとつひとつが、まるで細い糸がからみあっているかのように、細かく描かれている。岩瀬俊一≪爬虫類とゆかいな仲間たち≫2019 -
大川 誠Ohkawa Makoto
1976-2016 大阪府
羊毛フェルトで作られたこれらの人形は、「Makoot(マクート)」と名付けられたオリジナルの人形である。羊毛に針を刺し続け、針の抜き差しを繰り返すと、羊毛は絡まり徐々に固まって立体化し、形作られる。大きく分けて4つの種類の人形があり、ワンレングスヘアーの「金八先生」、帽子と髭が特徴的なサンタ、頭に山のような飾りがついた「ぴょん」(アトリエコーナスのスタッフが呼んでいる名称)、動物に分類される。大川誠≪Makoot(No.100)≫2005-2014 -
勝部 翔太Katsube Shota
1991- 島根県在住
これらの人形は「アルタイ」という商品名のアルミの帯でカバーされた針金で作られている。小さなハサミやニッパーをスピーディに使いわけ、切る、曲げるの動作を繰り返し、一時間以内で一つの人形が生みだされる。腕、足、胴体といったベースの骨組みを仕上げてから、装飾のデザインが加わり、早ければ5,6分の間に1体が完成する。アニメの戦士などをモチーフにしているが、既存のアニメの模写ではなく、オリジナルのデザインだ。勝部翔太≪無題≫2011-2013 -
古久保 憲満Kokubo Norimitsu
1995- 滋賀県在住
スーパーやコンビニ、外食チェーンやランドマークタワーが混在する架空の世界が描かれている。上下左右から描かれたこれらの作品は、電車、建築物、宇宙、車、船など、古久保が興味のあるものと、テレビのニュースなどで得た情報とが組み合わされている。幼い頃は無地のノートや落書き帳などに絵を描いていたが、次第に模造紙やカレンダーの裏などに描くようになり、学校の美術の先生からさらに大きな紙に描くことを勧められ、このような作品が生まれた。古久保憲満≪未来の上海ディズニーランド≫2010 -
小林 一緒Kobayashi Itsuo
1962-2025 東京都
18歳の頃から、家に帰ってから食べた物を思い出してメモをしていた。これらの作品は、これまでに書きためた食事のメモをもとに、ひとつひとつの食材が見えるよう、真上から見た構図で描かれている。26歳の頃から今のようなスタイルになり、晩年までこの制作活動を続けた。ペンや色鉛筆などで食材の質感や色を描きだしている。絵を描くものは自分が食べたものだけである。晩年は、しかけ絵本のように立体的に立ち上がる作品も制作した。小林一緒≪タイトル不詳≫2025 -
坂元 郁代Sakamoto Ikuyo
1953-2012 鹿児島県
縫った糸が幾重にも重なり、「刺しゅう」の概念を超えた形になっている。まっすぐに縫うことが苦手であったが、アトランダムにひと針、ひと針縫い続けていくうちに、糸と糸の積み重ねで自然と色彩豊かな作品が出来上がる。色とりどりの糸の塊が布から飛び出してきたように積み重ねた刺しかたが特徴で、時間の集積による色の絡みは絶妙である。1973年から約30年間しょうぶ学園で生活する。2012年没。坂元郁代≪フュージョン≫1995 -
高丸 誠Takamaru Makoto
1970- 北海道在住
セロハンテープを細く切り、丸めてさらにテープを継ぎ足すことを繰り返し、ひも状にしてからメガネの形に整える。まず丸いレンズの縁、そして2つの縁をつなぎ合わせ、耳にかけるツルの部分を作る。ツルの部分は折りたたむことができ、鼻当ての部分も作られているので、鼻にかけることもできる。白のフレームは無着色、黒のフレームはテープを油性の黒いペンで塗って作られている。ほぼ毎日、一つのメガネを15分足らずで作り上げている。高丸誠≪無題≫制昨年不詳 -
辻 勇二Tsuji Yuji
1977- 愛知県在住
自分の記憶をおりまぜながら架空の街を黒いペンのみで描く。気に入った建物や交差点など、記憶にある部分から描きはじめ、空想の街を描き広げていく。幼い頃から絵日記を描くことが習慣となっていたが、中学生の頃からこのような街の俯瞰図を描くようになった。画用紙1枚の絵を仕上げるのに数か月かかる。下書きなしで描く。次第に描く目線が上がり、より緻密になってきたため、一つの絵にかける時間も長くなってきている。辻勇二≪心でのぞいた僕の街≫2018 -
鶴岡 一義Tsuruoka Kazuyoshi
1980- 埼玉県在住
ノコギリで切った木材の側面はペンキで色が塗られ、さらにペンで丸が描かれている。これらの木材のパーツを組み合わせてできあがった立体物は、街を連想させるような一つの世界を表している。さまざまな線の太さで描かれる丸は、ペンの太さや描く密度によって変化がつけられているので、同じ丸を描いた作品でも全く異なる印象を見る者に与える。鶴岡はこうした制作活動を10年以上続けているという。鶴岡一義≪無題≫2017 -
戸舎 清志Toya Kiyoshi
1969- 島根県在住
この街の俯瞰図は、建築物以外の道路や空き地などの空間は車で埋め尽くされている。定規とボールペンを使い、カレンダーの裏に描かれている。カレンダーの裏面は、ペンの滑りがよく描きやすい、というのが理由であるという。一見すると同じように見える車だが、描かれる車はすべて実在のモデルがあり、それぞれ正確に描き分けられている。絵のもとになっているのは、彼が勤務先に通っていたバスの車窓風景で、その記憶をもとに描かれている。戸舎清志≪街と車のある風景≫2006年頃 -
西岡 弘治Nishioka Koji
1970- 大阪府在住
西岡が通う施設にピアノと楽譜が寄贈されたことをきっかけに、楽譜を描き写すことをはじめた。画用紙をイーゼルに立てかけ、右手にペン、左手に楽譜を持つと、楽譜をじっと見つめる。そして楽譜を数秒間凝視した後に、紙に向かって五線譜と音符記号を描き写す、という動作を繰り返す。一心不乱に描き進むうちに、絵の構図はどんどん右方向に流れている。描かれた楽譜を見ると、楽譜の内容を正確に写していることがわかる。西岡弘治≪楽譜 vivace.≫2008 -
野間口 桂介Nomaguchi Keisuke
1976- 鹿児島県在住
初めのころは、布の中央部に〇や△の模様を間隔をあけて刺していたが、すぐに布全体を埋め尽くすまで刺すことにこだわりを持つようになった。LLサイズのYシャツは年月をへて糸目で埋め尽くされ縮まり、表面は凹凸に波打ち小さい立体的なシャツへ変形する。5年かかったものもある。糸は他の人が使った残糸を拾い集め、短い糸を器用に刺し進め結び止める。近年は、細かい網目のチュール生地を細長く切り、幅2cm、長さ30cmほどの細長い布の刺繍を続けている。野間口桂介≪無題≫2000 -
野本 竜士Nomoto Ryuji
1970- 埼玉県在住
熱で溶ける樹脂製のホットボンドを、グルーガンと呼ばれる銃の形をした専用道具を使い、線状にして何層にも重ねると、不思議な形をした立体が生まれる。様々な色を使い、線を重ねれば重ねるほど、次第に作品は大きくなってきた。グルーガンは手指の力加減によって、線の細さを調整できる。接着剤として使用されるホットボンドの本来の用途をはるかに超え、野本は線の太さを自在にあやつり、細かな直線や曲線の重なりでダイナミックな立体物を作り上げる。野本竜士≪無題≫2014(部分) -
半澤 真人Hanzawa Masato
1976- 神奈川県在住
工場を題材とした絵は、写真をもとにペンで描かれている。小さい頃から動物や乗り物の絵を描くことが好きだった。写真の模写が得意だったことから、家族の写真、車やエンジンの写真などをもとに絵を描き始め、工場の写真にたどり着いた。彼が描く絵は、配管が複雑に入り組んだ工場がペンや色鉛筆などで細部までびっしりと描きこまれ、写真とは違った迫力を見る者に与えている。半澤真人≪工場≫2013 -
藤岡 祐機Fujioka Yuki
1993- 熊本県在住
チラシや折り紙、コピー用紙などの紙を手のひらほどのサイズの長方形に切った後、1ミリにも満たない間隔で細く切り込みを入れる。時折、紙の片面または両面にクレヨンやマーカーペンで色を塗る。等間隔に切り込みが入った紙は、ハサミに角度をつけて切られているため、細く切られることでねじれ、立体的な作品となる。リズミカルに、そして正確に切るため、途中で紙が切れてしまうことなく、つながった状態で作品が完成する。藤岡祐機≪無題≫2006~2008 -
戸次 公明Bekki Komei
1952 - 滋賀県在住
はじめは十円硬貨くらいの大きさに粘土を丸めた「お金」をたくさん作りはじめた。そして「餅」、「アメ」、「キャラメル」、「ドーナツ」、「チョコレート」、「パン」など、次々と粘土から作品が生まれた。象形文字のような紋様が刻まれることもある。「顔」も粘土で作った。小さく丸めた粘土を目や口に見立て、竹串を使って線を刻み、顔の表情を作る。時には赤土や白土を使い、部分的に色を変えて表現することもあった。戸次公明≪タイトル不詳≫1990年代後半頃 -
戸來 貴規Herai Takanori
1980- 岩手県在住
これは紙面いっぱいに「文字」が記された日記である。模様のように見えるが、これらが文字であることを発見したのは、彼が暮らす施設の職員であった。どの紙にも両面に鉛筆で日付と天気、気温、自分の名前、もう片面には「その日の出来事」が記されている。例えば「3月15日水曜日 天気晴れ気温16°Cへらいたかのり」、もう片面には「きょうはラジオたいそうをやりました」といった具合だ。ただ、内容は日々の出来事とは一致しておらず、日々の出来事の記録ではない。戸來貴規≪にっき≫2000-2006 -
前田 泰宏Maeda Yasuhiro
1970- 大阪府在住
写真を撮ることが好きで、旅先で自分が撮影した写真や購入したポストカードを見ながら絵を描く。乾燥して割れるのを防ぐために、アクリル絵具に木工ボンドを混ぜて描く。下描きはしない。イーゼルに立てたキャンバスと左手に持った写真を、まるで細かい図面と照らし合わせるように凝視しながら描く。ただ、写真をそのまま写実的に描くのではなく、前田にしか見ることができない、独特の抽象的な風景画が生まれる。前田泰宏≪鯉Ⅲ≫2010 -
松本 倫子Matsumoto Michiko
1973- 神奈川県在住
猫の「ほっぺ」が題材である。譲り受けたこの一匹の保護猫がきっかけで、本格的に絵を描きはじめることになった。「ほっぺ」は2020年に亡くなるまで、いつも松本のそばにいたという。今も「ほっぺ」の題材とした絵を日々描き続けている。下描きなしで描かれる絵は、色鮮やかで緻密である。今までに描いた「ほっぺ」の絵は既に数千点にも及ぶ。松本倫子≪hoppe≫2018 -
山﨑 健一Yamazaki Kenichi
1944-2015 新潟県
方眼紙にコンパスと様々な種類の定規、分度器といった製図用具、赤や黒、青のボールペン、色鉛筆などで描かれている。コンパスの針で一定の目盛りごとに穴が開けられ、その穴をたよりに線が引かれているが、定規などを使わず、自由に描きこんだイラストも混じっている。重機やクレーンを積んだ大型船などの乗り物、コントロールセンターなどの巨大建造物など、かつて就いていた仕事先で見た光景と空想とが入り混じった作品である。山﨑健一≪無題≫制昨年不詳 -
渡邊 義紘Watanabe Yoshihiro
1989- 熊本県在住
切れ目なくハサミを使い、紙から形を切り出す切り絵と、落ち葉を折り紙のように折って作る「折り葉」と呼ばれる作品は、いずれも昆虫や魚、動物が題材である。切り絵は、手に取ってもバラバラになることはなく、一枚の紙としてつながっている。「折り葉」は、自分でひろいあつめた大きくやわらかいクヌギの葉に、一枚一枚自分の息を吹きかけ、葉っぱをなじませながら丁寧に折り込んでゆく。10分ほどで一つの動物の形ができあがる。渡邊義紘≪フラミンゴ≫2015