ボーダレス・アートミュージアム NO-MA(ノマ)

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ボーダレス・アートミュージアムNO-MA20周年企画「人生はボーダレス! 作家たちの今と回想録」

2024年7月27日(土)- 10月13日(日)

絵本作家のはたよしこさんがNO-MAの立ち上げからディレクションしていたころ、私は日本全国の精神科病棟で長期入院する患者さんたちを撮影していた。アール・ブリュットなどまだ聞き慣れぬ頃の話だ。
患者さんたちが家計簿に記録する膨大な記録は、退院した時の訓練のためだと病院側は言っていたが、単調な暮らしの記録は、もはや訓練ではなく、歴史になり、アートのような家計簿に変換されていた。
長期入院の現状を写真に収めつつも、ベッドサイドに積み上げられたノートにも興味を持っていた。日常が面白いのか、アートに変換されたことが面白いのか、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで、はたよしこさんと出会い、アール・ブリュットという世界観に触れることで合致した。
はたさんに同行し、全国の作家たちに出会っていくなか、面白さと不思議さを感じさせられる作品が生まれる背景には、家族や暮らしが見え隠れしていると感じるようになった。自分の子が障害をもって生まれたことで「この先、どのように暮らしていけばいいのか、迷ったり悩んだり不安になることもあった」と言う。「たまたまこの子が生み出した作品が世間の目に触れたことをきっかけに、どれだけ家族の日常が救われたかわからない」という言葉を母親から聞かされ、アートが持つ力を確信した。

開館から20年を迎え、NO-MAを支えてくれた作家たちが、今、どこで何をしているのか。
多くの作家が日本中で発掘され続けているなか、NO-MAは、今まで出会った作家を振り返るという作業に向き合うことで、本展の企画が生まれた。本展はシリーズの初回となる展覧会となり、20年の時を経て、作品の変遷、作家や家族たちの軌跡を「作品」と「写真」、「インタビュー」で振り返る。

 

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA館長
大西暢夫

展覧会情報

会場:ボーダレス・アートミュージアムNO- MA 滋賀県近江八幡市永原町上16(旧野間邸)
開館時間:11:00~17:00
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)
観覧料:一般500円(450円) 高大生450円(400円)
※中学生以下無料、障害のある方と付添者1名無料  ※( )内は20名以上の団体料金

主催:ボーダレス・アートミュージアムNO-MA、社会福祉法人グロー(GLOW)~生きることが光になる~
後援:滋賀県、滋賀県教育委員会、近江八幡市、近江八幡市教育委員会
協力:草の実会草の実工房もく、しがらき会信楽青年寮、中野あいいく会杉の子城山、るんびにい美術館、若竹福祉会、近江八幡観光物産協会、しみんふくし滋賀、マエダクリーニング仲屋店

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出展者

  • 伊藤 喜彦   Ito Yoshihiko

    1934-2005 滋賀県

    信楽青年寮で約60年生活しながら、多くの個性的な粘土作品を30年にわたり制作した。「あ~情けない」が口癖だった伊藤は、傍若無人な荒々しさと繊細な心優しい面を併せ持ち、自然をこよなく愛した。
    初期の頃から、粘土で目玉状の突起物の集合体を生み出し、独特な表現の作品は、不気味なほどの迫力と妙なおかし味があり、彼のキャラクターそのもののようであった。後年は彼自身によって鮮やかな釉薬で色付けがなされ、独特で強烈な個性を一層際立たせる作品を残した。

    伊藤喜彦作品
    鬼の顔 1998-1999年
  • 喜舎場 盛也Kishaba Moriya

    1979- 沖縄県在住

    子どもの頃から文字への執着があり、作品はアルファベットからはじまり漢字へ移行していった。父親が入手した航空管制記録紙に丸みを帯びた小さな漢字を書きこんでいく。漢字の縦幅がだんだんと小さくなり、数行から1行になって最後は余白を残して終わる作品など、大半は途中で止まっている。
    2001年から福祉作業所に通所すると、カラフルなドットの作品へと移行した。漢字の作風と同じく左下から書き始め、紙面の周囲をびっしりと埋め尽くすが、中央は大きく四角い余白を残すこともある。
    現在は、毎朝朝刊を取りに行ったり、図書館で本を読むことがあり、漢字とともに生きる日々は今も続いている。

    喜舎場盛也作品
    ドットシリーズ 2014年
  • 佐々木 早苗Sasaki Sanae

    1963- 岩手県在住

    小学生の年齢で障害者福祉施設に入所し、今も生活している佐々木の制作は、施設の自室で静かに始まった。佐々木のなかで制作のブームがあり、さをり、紙一面に描かれた丸や四角、元の布の形が変わるほど縫い込まれた刺繍、カタログの隙間を埋めつくすように書き込まれた文字など表現が変化していて、その波は短い時で数カ月、長い時は何年にもおよぶ。
    2017年頃から現在は、“丸”をモチーフに制作を続けており、紙に描いた丸を切り貼りした作品、丸を切っただけの作品、最近では切らずに紙一面に羅列して描く作品などを制作している。羅列して描いた丸も縁取られたり、塗りつぶされたりと多様な変化は続いている。

    佐々木早苗作品
    無題(刺繍)2008-2009年
  • 西本 政敏Nishimoto Masatoshi

    1976- 北海道在住

    札幌市内を走る実在のバスを模倣し、木材で制作している。作品はとても精巧で、バスの壁面に描かれた図柄や行先、車内の座席なども再現されている。全体の形を把握してから細部に至るのではなく、まず細部が重要であり、それを組み合わせていくことで全体を認識しているように思われる。
    女の子の人形も数多く制作されている。以前は毛髪となる糸を一本一本内部の骨組に編み込んだり、腕や足、指などの関節まで動かせるほど細部まで工夫が施されていたが、ここ数年の作品は一枚板で表現されていて、髪の毛も彫刻刀で彫られている。
    現在も日中は作業所で木工作業を行い、自宅でも制作する日々が続いている。

    西本政敏作品
    北海道中央バス 2009年
  • 戸來 貴規Herai Takanori

    1980- 岩手県在住

    不思議な幾何学模様の描かれたB5判の紙が、30センチ程の厚さに重ねられ、中程が事務用の黒い綴じ紐で、無造作に綴じられている。それは2000枚にもおよぶ紙の束である。
    以前戸來が生活していた施設の職員によって文字と解読された「にっき」には、日付と気温の部分の数字が毎日違っているだけで、ほかはまったく同じことが書いてある。「3月15日水曜日 天気晴れ気温16℃ へらいたかのり」、裏面には「きょうはラジオたいそうをやりました(中略)みそしる うめぼし ぬりえ……」。昼夜問わず書いていた「にっき」であったが、現在は書いていない。

    戸來貴規作品
    にっき 2000-2006年
  • 宮間 英次郎Miyama Eijiro

    1934-2024 神奈川県

    フィギュアや電飾、水を入れた容器に金魚を入れたものなどで装飾した大きな帽子をかぶり、派手な衣装を身に着け、横浜の繁華街を自転車でゆっくりと巡回する。
    全国を転々としていた宮間は、辿り着いた寿町である日、カップ麺の空きカップを頭の上にかぶって街を歩いてみた。道行く人々が不思議そうに振り返って自分を見たことに、不思議な高揚感を覚えたという。最初のころは伸ばした髪に造花を挿すといったようなものであったが、段々と装飾が増えていって、巨大なかぶり物へと変化していった。
    晩年は、アーティストとしての活動を引退し、創作もパフォーマンスも行うことはなかった。

    宮間英次郎作品
    横浜の帽子おじさん 2000-2008年頃
  • 吉澤 健Yoshizawa Takeshi

    1966- 東京都在住

    吉澤は、休日になると街に出かけ、街中で見かけた企業名や看板をノートに記録して歩く。ノートは他にも、外出した行程や使用したお金などを記すメモなど、端から端までアラビア文字のような文字群で埋め尽くされている。以前は、ノートの表紙と裏表紙を雑誌や新聞・広告などの切り抜きで幾重にもコラージュし、セロハンテープで封印していたが、現在の作品はコラージュされることもなく、封印もされていない。
    学校を卒業後、企業に22年勤務し、その後に入った作業所で16年勤務しており、仕事も制作も継続している。

    吉澤健作品
    無題