ボーダレス・アートミュージアム NO-MA(ノマ)

【お知らせ】

2023年04月29日

企画展「林田嶺一のポップ・ワールド」関連レポート
事前作品調査【前編】

開催中の企画展「林田嶺一のポップ・ワールド」の関連レポートをお届けします。展覧会開催前、作品集荷のための事前調査で北海道を訪れたときのレポートです。今回の展覧会では、林田さんのご友人である原田ミドーさんのアトリエに展示されていたほぼすべての作品をご覧いただくことができます。どんなところから作品がやってきたのか、ぜひご一読ください。

 


大雪原に現れた、色鮮やかな「林田ワールド」

赤澤誉四郎 (社会福祉法人グロー職員)

 

北海道の大雪原

前編

 新さっぽろ駅で乗り込んだ車は、猛吹雪のなかを突っ走る。運転するのは、彫刻家の原田ミドーさん。真昼だというのに、すぐ前を走る車のテールライトがほとんど見えない。反対車線の車が、真っ白な空間から飛び出してくる。中央分離帯がどこなのかもわからない。
ホワイトアウトの車窓

車窓の外は猛吹雪でほぼ視界がなかった

 自分が運転していたら、アクセルを踏むことさえためらってしまうような、右も左も上も下もない白だけの世界。「これが北海道のホワイトアウトか」と、少し命の危険を感じてしまう。それなのに、原田さんは、すべてが見えているかのように、車線を変えたり、道を曲がったりしている。周りを走る車も、いつもと同じだろうスピードで走っている。

「こういうときは、変なところでブレーキを踏んだり、怖くてスピードを落としたりする方がかえって危ないんだよ。ゆっくり走ってると、わからなくて突っ込んじゃう」
そう言って原田さんは笑うけど、気がついたら橋を渡っていたりして、「落ちたらどうする!?」と怖くなってしまう。原田さんの運転技術と経験に、すべてをまかせることしかできない。

 ふと、4年前、太平洋をヨットで渡ったときのことを思い出した。静岡県の下田港から式根島まで、5時間ほどの航海をしたときのことだ。360度、どこを見ても空と海しかない青い世界の中を、小さなヨットは船長の操船のもと、ぐんぐん進んだ。波がおだやかなときは気持ちよく甲板に寝そべっていられるけど、海が荒れてくると、ヨットは波に乗り上げ、海面にたたきつけられた。そのたびに甲板を波が洗う。船長が「帆をたため!急がないと死ぬぞ!」と叫ぶ。大きな自然の力に恐怖を感じながらも、必死にロープを巻いたときのことを思い出した。

「林田さんの手荒い歓迎だね。あっちの世界からいたずらして喜んでいるんだよ」
原田さんが、また楽しそうに笑った。

ヨットから見た太平洋

ヨットから見た青一色の世界

 

 今回の北海道出張の目的は、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催する「林田嶺一のポップ・ワールド」展のための作品調査で、横井学芸員とともに訪れた。第2次世界大戦の記憶を独自の手法で作品にした林田嶺一さんは、多くの作品を残して2022年にこの世を去った。2016年にNO-MAで開催した「アール・ブリュット☆アート☆日本3」に出展して以来、横井学芸員と林田さんは手紙をやりとりする仲。林田さんの「お世話役」を自認する原田さんは、30年来の友人だった。僕自身は、このときまで林田さんの作品を直接見たことはなかった。

「岩見沢に10万円で小屋付きの土地を買ったんだけど、『高い!』って驚かれるような場所。『金を出してこのあたりの土地を買うなんて、めずらしい人がいるもんだ』って笑われたよ」と原田さん。林田さんが残した作品は、原田さんのアトリエに大切に保管されていた。大雪原の一本道をひたすら走ったその先に、ひと際大きな雪だまりが表れたと思ったら、そこが原田さんのアトリエだった。

雪に埋もれた小屋

原田さんが岩見沢に購入したアトリエ

【前編おわり】
☆後編は5月3日(水)10:00に配信します☆

企画展「林田嶺一のポップ・ワールド」の情報はこちらをご覧ください。

https://no-ma.jp/exhibition/hayashidareiichi2023/

同時開催「盲ろう者との美術鑑賞成果展示『静かな夜にことばを浮かべる』」

https://no-ma.jp/exhibition/2023mourou/

ゴールデンウィークの開館情報
 https://no-ma.jp/2023/04/27/01-2/